妊娠のしくみを知ろう
妊娠が成立するには、まず卵巣から卵子が排卵され、卵子と精子が卵管内で受精して受精卵になります。受精卵が子宮内膜に着床すると妊娠が開始します。
その過程のどこかで、何らかの異常があれば、妊娠が成立しにくくなります(=不妊症)。
妊娠のしくみを知り、どんな因子が不妊症の原因となるのかを知ることで、検査や治療に対する理解も進みます。
子どもがほしいと思ったら、妊娠のしくみについて基礎的な知識をゲットしましょう。まず、下記でご紹介する日本生殖医学会のホームページのQ&Aを通して読んでみましょう。
妊娠のしくみと不妊治療について知る
一般社団法人日本生殖医学会
日本生殖医学会は、生殖医学の専門家集団です。妊娠のしくみや不妊の原因、治療に関する研究を行っています。
ホームページ上の「生殖医療Q&A」では、妊娠のしくみや不妊症の原因・検査・治療などについて25の項目に分けて解説されています。
今すぐ知りたい!不妊治療Q&A
不妊治療に関する書籍はたくさんありますが、基本的なところから最先端の治療技術までを丁寧に解説しているものは多くはありません。
「今すぐ知りたい!不妊治療Q&A」は、医療職向けの書籍ではありますが、一般の人が読んでも理解できるように配慮されています。
妊娠のしくみについて、だいたいのイメージは持てたでしょうか?
簡単に言うと、「卵管で精子と卵子が出会って受精卵になり、子宮内膜に着床することで成立する」のが妊娠です。
この過程のどこかに問題があると、なかなか妊娠しません。先述のQ&Aでは、その問題(不妊の原因)が男性因子と女性因子に分けて解説されていました。
ここでは、次のように分けて説明を追加しましょう。
不妊症の原因
体内における受精障害
何らかの原因により、女性の体の中で精子と卵子が出会って受精が起こらないもの。
- 男性不妊
- 排卵因子
- 卵管因子
- 頸管因子・免疫因子
- 原因不明
卵子・精子の妊孕性消失
精子・卵子のいずれか、あるいは両方に妊娠できない原因があるため、妊娠しないもの。
無精子症や卵巣不全などが含まれる。臨床的に最も多いのは、加齢による妊孕性の消失である。
いったん妊孕性を失うと、現在の不妊治療では妊孕性を回復することは不可能で、生殖補助医療を用いても妊娠できない。
子宮・母体側の異常
着床が妨げられることで、妊娠可能な受精卵が子宮内に存在しても妊娠しないもの。
子宮筋腫や子宮内膜異常などがあるが、頻度は多くない。
「体内における受精障害」とは、卵子と精子が卵管で出会うまでの過程に問題があるものを言います。性交できない、精子の動きが悪い、排卵しない、卵管が通っていない、などが含まれます。不妊症の治療で一般的に受ける検査の多くが、この過程に異常がないかを調べています。
「精子・卵子の妊孕性消失」とは、精子や卵子がない状態、あるいは受精しても受精卵が育たない状態を言います。加齢による妊孕性の消失は卵子に著明で、「卵子の老化」などと言われることがあります。個々の精子や卵子の妊孕性を調べることが可能な検査はありません。
「子宮・母体側の異常」とは、子宮がない、子宮の奇形や子宮筋腫、子宮内膜の異常により着床しにくい、などが含まれます。奇形や子宮筋腫は超音波検査などの一般的な検査で調べられます。
不妊症の治療戦略
精子と卵子を近づける
体内における受精障害に対する治療の基本は、精子と卵子の距離を近づけてあげることです。
たとえば、排卵していない卵子は卵巣の外に出してあげる(排卵誘発)、精子を卵子により近づけるために子宮の中に入れてあげる(人工授精)、などの治療を行います。
精子と卵子の距離を究極的に近づけてあげるのが生殖補助医療(体外受精)になります。
精子と卵子の数を増やす
現在のところ、妊孕性を回復させる治療はありません。また、精子と卵子の妊孕性は、一つひとつ異なると考えられます。
そのため、出会う精子と卵子の数を増やして、妊孕性がある精子と卵子が出会えることを期待します。
刺激周期の体外受精では、多くの卵子を育てることが可能です。
妊娠する環境を整える
妊娠に影響を与える可能性があるホルモン異常や生活習慣を改善させます。子宮筋腫など、着床しにくい原因になっている病態の治療も含まれます。
適正体重を維持する、適度な運動を行う、必要な栄養素を摂る、禁煙する、なども妊娠しやすさにつながります。
不妊外来に受診したカップルのうち、およそ4割がタイミング療法や人工授精などの一般的な治療で妊娠し、およそ3割のカップルが出産できると言われています。そのカップルの中には、実際には異常がなかったカップルも含まれているかもしれません。
「体内における受精障害」だけが問題の場合、体外に出した卵子と精子を出会わせることができる生殖補助医療(体外受精)を行えば妊娠することができます。ある施設では、35歳未満の女性で生殖補助医療を行った場合、初回の治療で45%が妊娠しているというデータがあります。
「精子・卵子の妊孕性消失」に対しては、治療を繰り返すことで妊孕性がある精子と卵子が出会うことを期待することになります。残念ながら、年齢とともに妊孕性は低下します。生殖補助医療を用いても、35歳未満の女性では6割以上の人が出産できるのに対して、35~39歳では5割、40~41歳で2割強、42歳以上では1割程度になります。
完全に妊孕性が消失している場合(精子や卵子がない状態)、現在のところ自分たちの精子や卵子での妊娠は望めません。第三者からの提供により妊娠することは可能ですが、出生児への告知や出自を知る権利の問題などがあります。
「子宮・母体側の異常」に対しては、子宮筋腫や子宮内膜症などの治療を先行させることがあります。子宮がない女性の場合、代理懐胎や子宮移植などの選択肢があります。どちらも倫理的・医学的な問題があります。日本では現在のところ、代理懐胎は公的には行われておらず、子宮移植は研究段階です。
また、子どもを持つ・育てるための選択肢として、里親制度や特別養子縁組制度があります。