「経前期綜合徴」は、月経前に繰り返し起こり、日常生活や仕事に影響を与えるようなさまざまな症状をさします。
中医学の古典では、この疾患を系統的に論述しているものはありませんが、個別の症状についての記載が散見されます。これらの症状は、月経に伴って陰血が血海に注ぎ込まれ、陰陽や気血のアンバランスが生じることによって起こります。月経が終わると陰血が回復するため、症状が消失します。

日本語では月経前症候群と言い、しばしばPMSと略されます。
月経前症候群とは、月経前3~10日の黄体期のあいだ続く精神的あるいは身体的症状で、月経発来とともに減退ないし消退するものです。よく見られる症状は、イライラや情緒不安定、抑うつ気分や、乳房が張る感じ、だるさ、むくみ、頭痛、腹痛などです。
症状が強い場合には、仕事や学校に行けなくなることもあります。月経周期に伴って症状が出ることから、卵巣ホルモンが関与することが考えられますが、ホルモン値の異常があるわけではありません。
下記でご紹介するようなセルフケアを実践してもつらい症状がある時は、産婦人科を受診しましょう。産婦人科では、対症療法や漢方薬、ホルモン療法などで対応します。月経期もなるべく快適に過ごせるように、最適な治療を選んでいきましょう。
経前期綜合徴の弁証
中医学では、「経前期綜合徴」の各症状に対して、原因となる病態(証)を以下のように考えます。どの状態が判断して(弁証)、それに合った治療(論治)を行います。
月経前後に熱が出る、経行発熱
- 陰虚
- 血熱
- 気血虚弱
- 血瘀
月経前後に頭が痛い、経行頭痛
- 血虚
- 陰虚陽亢
- 血瘀
- 痰濁上擾
月経前後にむくむ、経行腫脹
- 脾腎陽虚
- 気滞湿鬱
月経前後に胸が張る、経行乳房張痛
- 肝気鬱結
- 肝腎陰虚
月経前後にお腹をくだす、経行泄瀉
- 脾虚
- 腎陽虚
月経前後に吐き気が出る、経行吐衂
- 肝経鬱火
- 肺腎陰虚
月経前後に口内炎ができる、経行口糜
- 陰虚火旺
- 胃熱薫蒸
経行発熱の弁証
今回は、上記の中で「経行発熱」について、その弁証論治を詳しく解説します。
薬膳のレシピも、食べる人の証に合ったものを考えるようにします。
具体的なレシピは、はっぴぃ薬膳のインスタグラムでご紹介しています。
陰虚
月経期~月経後に、午後の発熱、手足のほてり、胸がざわざわする感じがする。喉が渇く。
月経量は少ない。経血の色は紅い。
薬膳的おススメ食材
潤いを与える食材や熱を冷ます食材を摂りましょう。
- 豚肉
- 牡蠣
- 茶葉
- チーズ
- 枸杞の実
用いられる方剤・漢方薬
用いられる方剤には、地骨皮飲があります。
地骨皮飲に含まれる地骨皮は、枸杞の木の根に相当します。日本の漢方薬で地骨皮が含まれるものとして、滋陰至宝湯があります。
滋陰至宝湯は、「虚弱なものの慢性の咳・痰」に処方されますが、陰虚や肝気鬱結に伴う「ほてり」や「イライラ」などの症状にも効果があります。滋陰至宝湯については、インスタグラムでピックアップして解説する予定です。
血熱証
月経前数日~月経期に、体が熱く顔が紅くなる。口が渇く。水分を飲みたがる。
月経量は多い。経血の色は紅く、粘調性が高い。
薬膳的おススメ食材
熱を冷ます食材を摂りましょう。
- 豆腐
- カニ
- セロリ
- きゅうり
- りんご
用いられる方剤・漢方薬
用いられる方剤には、清経散があります。
漢方薬では、「月経不順」「のぼせ」などの症状をもとに、温清飲などが処方されます。
気血虚弱
月経前中~月経後に、熱が出る。体は冷えている。汗をかく。疲れやすい。
薬膳的おススメ食材
気血を補う食材を摂りましょう。
- 牛肉
- 赤貝
- かぼちゃ
- いんげん豆
- 落花生
用いられる方剤・漢方薬
用いられる方剤には、補中益気湯があります。
漢方薬でも、「手足のだるさ」「食欲がない」「疲れやすい」などの症状をもとに、補中益気湯がよく処方されます。
血瘀
月経前数日~月経期に、熱っぽくお腹が痛む。押さえると特に痛む。
月経量は少ない。経血の色は濃く、血の塊が出ることがある。
薬膳的おススメ食材
血を巡らせる食材を摂りましょう。
- たら
- 青梗菜
- ターメリック
- 黒砂糖
- 桃
用いられる方剤・漢方薬
用いられる方剤には、血腑逐瘀湯があります。
漢方薬では、「月経困難症」「下肢の冷え」「下腹部の痛み」などの症状をもとに、桂枝茯苓丸などが処方されます。桂枝茯苓丸については、以前にインスタグラムでピックアップして解説しました。
経前期綜合徴のためのセルフケア
証に合わせた薬膳とともに、日常生活にも気を配ることでセルフケアを行いましょう。
月経記録をつけてみよう
月経がいつ始まったか、量はどのくらいか、いつ終わったか、という月経の記録をつけてみましょう。簡単なものでかまいません。そして、日々のつらい症状の有無や程度も、書ける範囲で書きこみましょう。
どの時期にどんな症状が出るか予測できるようになり、ご自分の体調管理に活用できます。また、月経前症候群の診断にも役立ちます。
気持ちを安らかに
精神的なストレスは、症状を悪化させます。ストレスをためないよう心がけましょう。また、つらくなる時期のスケジュールには余裕を持ち、無理をしないようにしましょう。
周りの人の理解も大切です。あらかじめ、つらい時期があることを伝えておき、理解や協力を得るようにしてください。
バランスのよい食事を
ビタミンやミネラルをしっかり摂りましょう。甘いものは控えましょう。刺激物やアルコールも避けた方がよいようです。
体を冷やす食材は、脾陽を傷めるのでほどほどにしておきましょう。辛い食材は、陰を傷めるので食べ過ぎないようにしましょう。
軽い運動を
身体を温めることやリラックスすることにもつながるので、月経前後にも軽く身体を動かすことをお勧めします。
散歩や入浴後のストレッチ、骨盤周りを軽く動かすようなポーズを取り入れたヨガなど、気分良くできることを日ごろから取り入れておきましょう。
参考文献
- 妇科病手册:王阿丽主編(人民卫生出版社)
- 早わかり薬膳素材:辰巳洋著(源草社)
- 漢方製剤応用自在のユニット処方解説:秋葉哲生著(ライフ・サイエンス)
- 産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第4版:日本産科婦人科学会編集・監修(日本産科婦人科学会)