中医学の「多嚢卵巣綜合徴」とは、複数の原因で起こりうる病気で、さまざまな症状が見られます。典型的なものでは、肥満、多毛、無月経、不妊があります。無排卵の原因として性ホルモンの異常が関与していることがわかってきました。

「多嚢卵巣綜合徴」は、中医学の教科書で取り上げられてはいますが、西洋医学による診断が必要な疾患です。日本語では多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と言います。
西洋医学の定義では、
- 月経異常(無月経、希発月経、無排卵周期症)
- 多嚢胞性卵巣(超音波検査で卵巣内に小さな卵胞がたくさん見える)
- 血中テストステロン高値またはLH基礎値高値かつFSH基礎値正常
の3項目を満たす症候群です。
原因として多くの概念が提唱されていますが、はっきりしたことはわかっていません。
不妊のほか、インスリン抵抗性などを示すこともあります。無排卵の状態が続くと子宮内膜がんのリスクも高まります。
多嚢胞性卵巣症候群で月経異常がある方には、お薬を使って月経を起こす治療を行います。無月経や月経の回数が少ないなどの異常が続いている場合には、妊娠を望んでいなくても一度産婦人科を受診することをお勧めします。
多嚢卵巣綜合徴の弁証
中医学では、「多嚢卵巣綜合徴」の原因となる病態(証)を以下のように考えます。どの状態が判断して(弁証)、それに合った治療(論治)を行います。
ここでは、多嚢胞性卵巣症候群に対する西洋医学的な治療に並行して、治療の効果を高める身体づくりを目的とした弁証論治をご紹介します。
薬膳のレシピも、食べる人の証に合ったものを考えるようにします。
具体的なレシピは、はっぴぃ薬膳のインスタグラムでご紹介しています。
腎虚
初経が始まる年齢が遅い。月経周期が長い。経血の量が少なく、色が淡い。月経不順や無月経になる。
足腰がだるい。頭痛や耳鳴り。四肢が冷たい。おりものの量が少ない。不妊。
薬膳的おススメ食材
腎を養う食材や気を補う食材を摂りましょう。
- 羊肉
- 鹿肉
- カリフラワー
- やま芋
- くるみ
用いられる方剤・漢方薬
用いられる方剤には、右帰丸があります。
漢方薬では、「疲れやすい」「下半身や四肢の冷え」「腰痛」などの症状をもとに、八味地黄丸や牛車腎気丸などが処方されます。
脾虚
月経周期が長い、あるいは無月経。経血の量は少なく、色は淡い赤、サラサラとした血が出る。
心身が疲れやすい。軟便。めまい。おりものが多い。肥満。不妊。
薬膳的おススメ食材
脾を養う食材や気を補う食材を摂りましょう。
- 太刀魚
- すずき
- ささげ豆
- じゃが芋
- 桃
用いられる方剤・漢方薬
用いられる方剤には、人参養栄湯があります。
人参養栄湯については、インスタグラムでピックアップして解説しています。
漢方薬では、「食欲がない」「疲れやすい」「手足が冷えやすい」などの症状をもとに、六君子湯を中心とした補気剤が処方されます。
気滞血瘀
月経周期が長い、あるいは無月経。経血の量は多い、あるいは少ない。月経が長引く。経血の色は黒っぽく、ネバネバしている。血の塊が出ることもある。
不妊。乳房の張り。腹痛。顔色が暗く、しみがある。
薬膳的おススメ食材
気血を巡らせる食材を摂りましょう。
- そば
- 玉ねぎ
- グリンピース
- 紅花
- 玫瑰花
用いられる方剤・漢方薬
用いられる方剤には、膈下逐瘀湯があります。
漢方薬では、「下半身の冷え」「唇の乾燥」などの症状をもとに処方される温経湯は、排卵を促す効果があると報告されています。
温経湯については、インスタグラムでピックアップして解説しています。
痰湿阻滞
月経周期が長い、あるいは無月経。経血の量が少ない。色は暗く、ネバネバした血が出る。
不妊。おりものが多い。胸が苦しい。肥満。多毛。
薬膳的おススメ食材
湿をとる食材を摂りましょう。
- はと麦
- はまぐり
- とうもろこし
- レタス
- 小豆
用いられる方剤・漢方薬
用いられる方剤には、蒼附導痰丸があります。
漢方薬では、「胃腸が弱い」「めまい」「頭痛」などの症状をもとに、半夏白朮天麻湯などが処方されます。
半夏白朮天麻湯については、インスタグラムでピックアップして解説する予定です。
多嚢卵巣綜合徴のためのセルフケア
証に合わせた薬膳とともに、日常生活にも気を配ることでセルフケアを行いましょう。
バランスのよい食事を
各栄養素をバランスよく摂るようにしましょう。辛いものや脂っこいものの摂りすぎは控えましょう。
むやみにダイエット食品を摂ることは避けましょう。
適正体重を維持しよう
多嚢胞性卵巣症候群では、適正体重より多い場合には減量が治療になりえます。ご自分の身長に合った適正体重を目指しましょう。
ただし、やせればいいというわけではありません。やせ過ぎも月経不順の原因になるのでご注意を。
身体を動かそう
適度に体を動かしましょう。
運動はストレス解消につながります。また、運動をすることで適正体重を目指しましょう。
月経不順を放置しない
妊娠を望んでいる場合には、産婦人科を受診しましょう。多嚢胞性卵巣症候群以外にも、妊娠しにくい原因が見つかるかもしれません。
また、治療によって排卵するようにしただけで、妊娠することも少なくありません。
妊娠を望んでいない場合にも、月経不順が続いていれば産婦人科を受診しましょう。
無月経が長く続く場合、子宮の内膜が厚くなりすぎることもあります。適切な治療を受けることをお勧めします。
参考文献
- 妇科病手册:王阿丽主編(人民卫生出版社)
- 早わかり薬膳素材:辰巳洋著(源草社)
- 漢方製剤応用自在のユニット処方解説:秋葉哲生著(ライフ・サイエンス)
- 産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第4版:日本産科婦人科学会編集・監修(日本産科婦人科学会)